熱的快適性(UTCI)マップ
「04 熱的快適性」タブは、気象データ、風のシミュレーション、建物・樹冠の日陰、地表面のデータを組み合わせて地点ごとのUTCIを計算し、階級のマップとして出力します。
概要
熱的快適性マップは、屋外空間が夏に座って過ごせる場所かどうかを、設計初期の段階で判断するための図版です。同じ問いは通常、SOLWEIG・ENVI-metなどの専門ソフトウェアで分析します。
入力データの大部分は、ほかのタブがすでに作った結果です。新たに取得するデータはありません。
使い方
- 敷地と半径を決めます。
- 「04 熱的快適性」タブで期間(夏・春・秋・冬・年間)を選びます。
- 時刻(10時・14時・18時)を選びます。
- 「計算する」を押します。
同じ敷地・期間の風のシミュレーション結果があれば、計算は数秒で終わります。結果がない場合は先に風のシミュレーションが実行され、半径に応じて30秒〜3分かかります。
UTCIと階級
UTCI(Universal Thermal Climate Index、汎用熱気候指数)は、気温・湿度・風速・放射をまとめて、人が感じる温度1つで表した指標です。基準となる環境(無風・日陰・湿度50%)で同じ生理的反応を起こす気温として定義され、単位は℃です。国際共同研究(COST Action 730)で作られ、都市の温熱環境の研究で広く使われています。
階級には、UTCIで定義された名前を使います(括弧内は定義上の英語名)。
| UTCI | 階級 |
|---|---|
| 9〜26℃ | 熱ストレスなし(no thermal stress) |
| 26〜32℃ | 中程度の暑熱ストレス(moderate heat stress) |
| 32〜38℃ | 強い暑熱ストレス(strong heat stress) |
| 38〜46℃ | 非常に強い暑熱ストレス(very strong heat stress) |
| 46℃以上 | 極度の暑熱ストレス(extreme heat stress) |
寒冷側の階級(0〜9℃のわずかな寒冷ストレス、それより下の中程度・強い・非常に強い・極度の寒冷ストレス)も同じ方法で定義されており、冬の計算で使われます。
計算方法
入力は4つで、そのうち3つはほかのタブがすでに使っているデータです。
| 入力 | データ | 処理 |
|---|---|---|
| 気温・湿度・日射 | EPW気象ファイル(風配図と同じファイル) | 8,760時間分の乾球温度・湿度・日射・雲量を、月×時刻でまとめて使用 |
| 風速 | 「03 風」タブのシミュレーション結果 | 同じ敷地・同じ期間の結果があれば、そのまま再利用 |
| 日陰・天空率 | 建物の高さマップ(風と共通)と地形、樹木の検出 | 太陽の位置から日影を計算し、空が見える割合(SVF)を求める |
| 地表面 | 公園・緑地のポリゴン ∪ 航空写真の植生検出 | 芝生(アルベド0.20)はアスファルト(アルベド0.12)より熱くなりにくい |
この4つの入力から地点ごとに平均放射温度(MRT)を求め、気温・湿度・風速と組み合わせてUTCIを計算します。
UTCIの計算式は6次多項式・210項です。手で書き写すと誤りを避けられないため、検証済みの公開実装からスクリプトで抽出した式をそのまま使います。公開されている検証表の9事例をコードに入れ、毎回照合します(許容誤差0.1℃)。
樹冠の日陰
樹冠の日陰を入れないと、公園が市街地と同じ階級で計算されます。公園には建物がなく、日影ができないためです。
緑地の地表面の効果(芝生が熱くなりにくいこと)より、樹冠の日陰の効果のほうがはるかに大きく、公園が涼しい理由の大部分は日陰です。
そこで、航空写真から検出した木に高さ8mを仮定し、建物と同じ方法で日影を計算します。木の日陰は完全ではないため、直達日射の15%が通過するものとします(透過率0.15)。樹冠の下の天空率は0.30を上限とします。
8mは仮定の値です。航空写真からは木の位置は分かりますが、高さは分かりません。実際の木がもっと高ければこのマップより涼しく、若い木であればもっと暑くなります。画面の注意書きにも、木の高さを8mと仮定していることが常に表示されます。
樹冠を障害物の高さに加えると、木の下に立つ人の目の高さが8mとして扱われ、日なたと判定されてしまいます。これを防ぐため、観測点の高さは地面の高さとして別に渡します。この処理がないと、木を入れても日陰の効果が現れません。
結果の読み方
地点ごとのUTCIの値(例:この地点のUTCI 35.1℃)は、このツールが保証する値ではありません。画面の注意書きのとおり、結果は数字を引用せず、場所同士を比較するために使います。
日陰で緑に表示される路地と、日が当たって赤く表示される広場の違い、街路樹の列が途切れた区間の色の変化は、形から出てくる判断で、この図版で十分に見分けられます。
この図版は、期間と時刻を変えながら比べる使い方をします。同じ敷地でも、太陽高度が変わると日陰の割合と階級が変わります。広場の設計では、1日のうち人が滞在する時間帯と合わせて検討します。
配置案の比較にも使います。ボリュームの配置によって日陰が落ちる位置と、その場所の階級の変化が現れるため、屋外空間の位置を決める根拠になります。
制限事項
この図版は温熱環境の評価書ではありません。実際の評価は検証されたモデルで複数の日・時刻を計算して統計で判定し、樹木は樹種・樹高の実測値で入れます。この図版は、その前の段階である設計初期に、屋外空間の温熱環境の構造を確認するためのツールです。
熱的快適性の図版は屋外に滞在できるかどうかを判断する指標なので、読み違えたときの影響は風の図版より大きくなります。既知の偏りと欠落は次のとおりで、結果は涼しい側に偏ります。
- 歩行者の高さの風を解像しない:UTCIは定義上、高さ10mの風速を入力にしますが、CFDの最も低い流体セルは4〜8mの区間(中心6m)です。実際の高さ1.5mの風はこれより弱くなります。風が強めに入力されるとUTCIは低く計算されるため、涼しい側に偏ります。
- 樹木の検出漏れ:樹木の検出では一部の木を見落とします。見落とした木は日陰を作らないため、暑い側に偏ります。上の項目と一部で打ち消し合いますが、どこでどれだけ打ち消し合うかは分かりません。
- 表面の物性は文献の代表値:アスファルト・コンクリート・芝生のアルベドと放射率は実測していません。同じ理由で、地表面温度のマップは別に出力しません。表面熱収支を解くには熱慣性・土壌水分・蒸発散のデータが必要ですが、そのデータがありません。
- 高さが分からない建物の除外:風と同じ高さマップを使うため、高さが分からない建物は同じように含まれません(渋谷駅・半径800mでは3,975棟のうち134棟)。
「PNG保存」で保存した結果の画像には、樹冠の日陰は樹高を8mと仮定していること、表面の物性は文献の代表値であること、数字を引用せずに場所同士を比較することを求める注意書きが入ります。「図版のみPNG」で保存するとこの注意書きが入らないため、キャプションを別に付けてください。
データの出典
| データ | 用途 |
|---|---|
| EPW/TMYx 気象ファイル | 気温・湿度・日射・雲量(8,760時間)。climate.onebuilding.org。風配図と同じファイル |
| 「03 風」のシミュレーション | 風速 |
| 3D都市モデル(PLATEAU) | 建物の高さマップ(国土交通省)。建物の日陰、天空率(SVF)。風と共通 |
| 国土地理院 標高タイル | 地形(DEM5A・DEM10B) |
| 地理院タイル シームレス空中写真 | 樹木・植生の検出(国土地理院)。樹冠の日陰、地表面 |
| 公園・緑地のポリゴン | 地表面 |
| UTCIの公開実装・検証表 | 計算式(6次多項式・210項)、検証事例9件(許容誤差0.1℃) |
| COST Action 730 | UTCIの定義 |